人口およそ1万5000人、鹿児島県・大隅半島の東部に位置する肝付町。その中央には900m級の肝属(きもつき)山系が横たわり、滝や川、そして美しい海岸線が広がっています。また一年を通じて温暖な気候で過ごしやすく、近年は移住・Uターンを考える人も増えているようです。
そんな肝付町の名を日本国内はもとより世界中に知らしめるのが、2003年に小惑星探査機「はやぶさ」の打ち上げにも成功したJAXAのロケット発射場「内之浦宇宙空間観測所」の存在です。内之浦市街地から同観測所へと続く道は「内之浦惑星ロード」と呼ばれ、道中に架かる橋の欄干には惑星をモチーフにしたユニークなオブジェも! 肝付町ではこうした観光資源を活用したサイクルツーリズムに町を上げて取り組み、国内外のサイクリストの注目を集めています。
「海と山々との距離が近い肝付町の澄んだ空気をたっぷりと吸って、旅先ならではの“こころの換気”をしていただけたら……」。コロナ禍での誘客に苦戦しながらも、そう想いを語るのはサイクルツーリズム事業を手掛ける肝付町役場企画調整課の木佐貫さんです。
肝付町では2017年より景観や歴史、地元グルメなどを楽しめるサイクリング大会を催してきたものの、なかなか継続的な誘客に繋げることができなかったのだとか。そうしたなか、東京で体験したサイクリング観光にヒントを得て、それまでの“サイクリングを中心とした観光客誘致”から“自転車を活用した体験型観光の創生”へと発想を転換。子どもや初心者でも気軽にサイクリングを楽しめるようにとE-バイクを導入し、地域の魅了をよりダイレクトに訴求できる走行ルートを策定するなど、誰もが自転車に乗って“宇宙へ続く道”を走り出したくなるような環境づくりを整備してきました。
感染症対策や安全性の検証を幾度も重ね、2020年12月に開催へとこぎつけたモニターツアーでは、①ウエルカム宇宙の町・肝付コース ②惑星ロード・銀河コース ③宇宙の町・肝付1周コースといった3つのモデルルートを策定。いずれも町を代表する観光スポットを効率よく回れるように構成され、初心者から上級者まで各自のレベル・体力に応じて自由にルートを選べるとあって大変好評を博しました。
さらに地元の歴史や自然に精通したガイド付きのサイクリングツアー、立ち寄りスポットでの「肝付ふるさと案内人」による旧跡や特産品ガイド、町内の主要施設のサイクルステーション化、地場食材を主役にしたランチメニューの提供など、参加者と地域の人がふれあえる仕掛けや工夫も積極的に計画。これには参加者たちも「眺めているだけでは気づけない町の息吹が感じられた」「安全に配慮されたコースと手厚いサポートがあり、サイクリング初心者でも楽しめた」とご満悦の様子でした。
また、誰よりも町の魅力をよく知る肝付町観光協会の加治木さんも「食や歴史、宇宙事業といった肝付町ならではの観光資源はもちろん、地元の人々との交流を通して肝付町のよ良さを感じ、ファンになってもらえたらうれしいですね」と、瞳を輝かせていました。
肝付町ではこうしたモニターツアーをはじめ、地元の飲食店や小売店、宿泊施設といった各事業者との意見交換会、地域向けサイクルツーリズムセミナーなどの参加者の生の声をもとにブラッシュアップを重ね、これからも好奇心をくすぐるサイクリングイベントを企画予定。今後の展開からますます目が離せません。
写真提供:肝付町観光協会
鹿児島県肝属郡肝付町