海の新たな楽しみ方を提案する「砂浜図書館」

秋のビーチでゆったり読書を

 茨城県の太平洋沿岸に位置する大洗町。北関東で最大級の広さを誇る大洗サンビーチ海水浴場を有し、豊かな漁場で獲れるあんこうやしらすなどの海の幸にも恵まれた、マリンレジャーの町として知られています。

 毎年夏には多くの海水浴客で賑わいますが、昨年は新型コロナの影響で海水浴場が開設できない状況に。いつもとは違う、海に人のいない夏を過ぎ、迎えた秋。10月31日(土)~11月15日(日)の16日間にわたり、砂浜で本を読みながらゆったり過ごそうというユニークなイベント「砂浜図書館」が、大洗サンビーチ海水浴場で開催されました。

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オープンシェルフなど図書館をイメージさせる装飾が施された

今まで海に来なかった人を
ターゲットに

 本事業進行の主体となったのは、大洗観光協会事業戦略チーム。2018年に結成され、海水浴に代わる海の活用法について話し合いを続けてきました。

 「コロナ以前より海水浴の需要は減少傾向が続いているんです」と話すのは、チームメンバーで大洗観光協会事務局長を務める鬼澤保之さん。プールやショッピングモールなど楽しみ方の選択肢が増えたことに加え、東日本大震災が海離れの大きなきっかけになったと感じているといいます。さらに「夏が終わると極端に観光客が減ってしまうことが長年の課題でした」。そこで、年間を通じて海の利用を促進するため、秋の海を舞台にしたイベントの企画が始まりました。

 まずはターゲットの絞り込み。「夏に海に来てワーッと元気に遊ぶタイプの人ではなく、今まで海に来なかった人。例えば、文科系の女子大生をターゲットにしてみようという話になりました」。では、「どうしたら文科系女子大生が海に来てくれるのか」と考え、ポンと出てきたのが「図書館」というアイディアでした。

砂浜に作り上げられた、
非日常の空間

 本は茨城県立図書館からリサイクル本を譲り受け、事業戦略チームの本が好きなメンバーが中心になって選定。寄贈もあり、約1000冊のバリエーション豊かなラインナップに。また、会場演出はブライダルで活躍する会社に依頼。SNS映えをねらったおしゃれな空間づくりを行いました。8月にはプレイベントを実施。そこでコロナ対策のノウハウをためることができ、ある程度フローも完成したことが本開催に向けて安心材料になったといいます。「本をラベリングして本棚ごとにジャンル分けするなど、ブラッシュアップもできました」と鬼澤さん。

 そして、広大な空の下、日よけのタープやパラソル、椅子、テーブルなどが設置され、静かな砂浜にリゾート感あふれる図書館がオープンしました。PRの開始が遅れたことで前半こそ苦戦したものの、SNSでの発信やテレビ取材が入るなどの後押しもあり、通算で462人を集客。ねらい通り若い女性をはじめ、幅広い世代が訪れ、思い思いに読書を楽しむ姿がありました。

 「実際座席に座ってみると、タープで日差しは遮られ、心地よい風が吹き、波の音が聞こえる。日常のわずらわしさが忘れられますよ」と鬼澤さんは微笑みます。そして、お客様とのこんなエピソードも教えてくれました。「当初はBGMを流そうかという案もあったのですが、無音での開催に。すると、お客様から波の音がすごく心地よかった。BGMがなくてよかった、と声を掛けられたのです。私たちもこのイベントを通して、気づいていなかった海の魅力を発見したという思いです」

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ソーシャルディスタンスをとって
設置されたタープ

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津波避難施設1階の吹き抜けを
本の貸し出し場所として使用

新しいブランドイメージを
醸成していきたい

 本事業では、夕方以降の海の活用にもチャレンジ。砂浜図書館開催期間中の土日の夜に「夜の砂浜図書館」「スカイランタン」「キャンドルナイト」という3つのイベントも実施しました。「スカイランタン」は赤と青のLEDが入った紙製のランタンを、参加者全員で一斉に空に放つというもの。「キャンドルナイト」では約700個のLEDキャンドルを砂浜に配置し、それぞれで幻想的な景色が広がりました。特にスカイランタンはイベントの華やかさからも話題になり、3日間で1797人が参加。無数のランタンが夜空を美しく彩りました。

 おしゃれにゆっくり自然を感じることをテーマとした今回の一連のイベントに、大洗の海のブランドイメージを変える可能性を感じたという鬼澤さん。ソーシャルディスタンスを確保し、個人で静かに楽しめる砂浜図書館は、対コロナの面でもニーズにマッチしたコンテンツ。今後も不定期で開催していく予定だといいます。盛況だったスカイランタンについては、「どちらかというと、みんなで楽しみたい人が集まるイベントなので、図書館との整合性、親和性を考え、切り離して独立したイベントとしてやっていきたいと思っています」

 さらに、集まった本を活用し、飲食店や駅の待合室などで「町中図書館」を行なうといった案もあるそう。「図書館というキーワードを活かし、海を離れて町中でも新たな施策を展開していければと思います」

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夜の浜辺で読書を楽しむ「夜の砂浜図書館」

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「スカイランタン」では夜の砂浜が
幻想的な空間に

写真提供:一般社団法人大洗観光協会

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